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(にちにちどくしょ)最新おすすめ本のレビューです。

野球論から学ぶ大局観。野球好きビジネスマン必読!

セイバーメトリクスの落とし穴 (光文社新書)

セイバーメトリクスの落とし穴

お股ニキ(@omatacom) 光文社新書

 

MLBメジャーリーグ)には「クレイトン・エドワード・カーショウ」というとんでもなく優秀なピッチャーがいます。

 

もちろんカーショウについて本書でも大いに触れられていますが、著者は気がついているのでしょうか?

 

自分自身が、日本の野球評論界に突如現れたカーショウであるということに。

 

「データ」と「感性」と「文章力」の融合

まず、本書はお股ニキ(@omatacom)というTwitterアカウントが著者であり、その野球経験は中学の部活動まで(しかも途中で退部)ということをご承知頂きたいです。

 

私は敢えて、著者の記した野球理論の内容の賛否については触れないようにしようと思います。

 

それは、本書の素晴らしさが野球理論の部分以外に多分に含まれているからです。

 

その素晴らしさは3つあります。

 

・データ

 

・感性

 

・文章力です。

 

『データ』 圧巻のデータ収集能力

本書では、これまで野球を語る時に抽象的にしか表現されてこなかった部分が、より具体的に、より計測的に表現されています。

 

私がスラッターと感じているボールを物理的に表現すれば、概ね80マイル台後半のスピードでPITCHf/xだと左に0~5インチ、重力での落下と比べて0~5インチ上の変化量で、二次元の回転角度は135度前後のボールである。

(98ページより)

 

これはセイバーメトリクス統計学的野球戦略論)的解釈が充分可能となるデータ量を、著者が知見として蓄えているからこそなせる業なのです。

 

『感性』 一流の雰囲気漂うビジネス視点

本書では折に触れて、野球を2つのビジネス的見地から分析しています。

ひとつは球団運営を中心とした経営に関するビジネス。

そしてもうひとつは野球を「仕事」として見た時のビジネスです。

特に、仕事論として本書を読んだ時、その含蓄の深さはシビれるものがあります。

 

良い選手や数字を残せる選手の動きを観察・研究して共通点を導き出し、機能的にプレーを進化させていくアプローチは不可欠である。

(165ページ)

 

一般のビジネスの現場も然りですね。

 

『文章力』 読む側の負荷を常に配慮しつつ、圧巻の語り

本書は、342ページの中に筆者の野球理論がパンパンに詰め込まれている。

驚くべきは、それが数値的データを多分に含んだ専門的な内容であるにも関わらず、筆者の熱を感じながらグイグイと読み進められる点である。

 

ちなみに、ベースボール史上最高のチームのひとつに数えられる1998年のヤンキースも、50本も60本もホームランを打つ選手こそいなかったが、9番のスコット・ブロシャスですら打率.300、19本塁打、98打点を記録するほどで、3割15本~20本位をマークできるセンスがズラリと並んでいた。

(224ページ)

 

こういった長めで熱量もある文章でも、すんなり読める並びでサラッと書けている感じが筆者の持つ文章力の特徴と、私は考えています。

 

まとめ 『大局観』を学ぶべし

本書を読んで、今後MLBメジャーリーグ)もNPB(日本プロ野球)も、これまでよりも大いに興味深く楽しめるのは間違いないと私は確信しています。

 

ですが、本書からは野球というプロスポーツの分析と理論展開を通して、0か100かの二元論から脱し、中長期の成長計画が導き出せるバランス感覚、すなわち「大局観」を身に着けたいと感じました。

 

とにかくこの20年間の日本は「大局観」を失い、トータルで勝つことを放棄して、投資や拡大とは真逆の発想で運営されて沈んでいったと言える。

(324ページ)

 

著者にアドバイスを求めたというダルビッシュ投手は、そんな「大局観」を著者から感じていたのかもしれません。

 

誰にでもおすすめですが、少なくとも野球好きのビジネスマンは必読の一冊です。

 

 

セイバーメトリクスの落とし穴 (光文社新書)

セイバーメトリクスの落とし穴 (光文社新書)

 

 

 

【追記】

野球をプレイするのが好きな方は、トクサンの著書がおすすめです。

併せて読んでみてください。

 

bundokisan.hatenablog.jp